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最上川・仙人堂から生まれた絵本「うみのむこうへ」
私は、平成元年「奥の細道芭蕉紀行三百年記念祭」の年に、義経や芭蕉の埋もれた仙人堂を甦らせようと各種の企画を考えました。その一貫として、子供たちにも歴史文化遺産の大切さを教えなければと思い「文学と自然そして歴史とのおしゃべり」をテーマに「うみのむこうへ」と題して絵本を出版いたしました。その物語は、仙人堂を甦らせるまでの私の考えや行動を、動物や魚に置き換え、いつも足元にありながら気づかない一粒の小さな木の実との出会いを酒田市在住の木山由紀子さんに描いていただきました。  今や仙人堂は、完全に甦り芭蕉はもちろんのこと、義経と最上川の関係までが大きくクローズアップされるまでになりました。これも偏に二度にわたり仙人堂をお訪ねくださった斎藤茂太先生(医学博士・作家)はじめ皆様方のお力添えの賜であり深く感謝申し上げます。また斎藤先生からは、「うみのむこうへ」に推せんのおことばをいただきました。  しかし残念なことに斎藤先生は、2006年11月にご逝去されました。  温容なお人柄で多くの人びとに親しまれた斎藤茂太先生のご冥福を心からお祈り申し上げます。  最後に私は、年齢を問わず多くの方々に愛読される絵本と思い、ホームページでご紹介させていただきました。お子様と一緒にご家族でお読みいただき、そして、最上川の仙人堂にお越しいただければこの上ない喜びです。

芳賀 由也

うみのむこうへ


(1)
ひろいそらのしたの ひろいひろいうみにくじらがすんでいました。

(2)
どこまでもひろい しずかなうみで、くじらはさんぽをしたり、ジャンプしたり、しおをふいたり、なみのおとをこもりうたにひるねをしたりしてのんびりくらしていました。

(3)
あるひ くじらのはなさきに コツンとなにかが ぶつかりました。
それは ちいさくて ちゃいろで かたい みたこともないへんなものでした。
「これは なんだ?」
くじらのむねは どきどき、しっぽはむずむずしてきました。
そして、おおいそぎで、ともだちのぺんぎんをたずねました。

(4)
「みて これなんだかわかる? ペンギンくん」
「それなに? どうしたの?」
「ひろったの。なんだとおもう?」
「うーん………なんだろう?」

(5)
「くじらが へんなものをみつけたよ」
たくさんのさかなが あつまってきました。
「なんだろうね これ」
「あんまり ちかよらないほうがいいとおもう」
「そうそう きけんぶつかもしれないよ」

(6)
すると タコが
「みなさん、これはきっと かいです。いまにこのへんから くだがでてきますよ」
なんて じしんたっぷりにいいましたが、いつまでたっても なにもおこりません。

(7)
くじらとペンギンは たびのとちゅうの あほうどりにききました。
「あほうどりさん、あなたなら これがなんだかしっているんじゃないですか?」
「ふむ、わたしはせかいじゅうのうみを たびしてきたからね。 どれ、ふむふむ………これならみたことがあるね」
「ほんと!」

(8)
ふたりは あほうどりがおしえてくれた はるかとおく きたのくにへむかって しゅっぱつしました。
そこへいけば、きっとこれがなんだかわかるはず。

(9)
なんにちも なんにちも くじらはペンギンをのせて およぎました。
そして あるあさ とうとう りくちがみえてきました。

(10)
ふたりは ちかくをとおりかかった いかのむれにたずねました。
「こんにちは いかさん。 ちょっとおたずねしますが これがなんだかしっているかたはいませんか?」
「どれどれ」
「なにかのたまごじゃないか?」
「そんなたまご みたことがないわ」
「ちょっとまった! それなら かわからながれてくるのを、みたぞ!」 「かわ?……」

(11)
おおきなかわを くじらはザンブ ザンブとすすみます。

(12)
はでな しぶきがあがって こいもなまずも みんな ちゅうにまいあがる。
「わっわっわー!」

(13)
ふたりは ふるいおどうのあるふなつきばで ひとやすみ。
せんにんどうとよばれる そのおどうは、おとずれる人もなく そのまわりは ひどく あれはてていました。
すると そこへ、としとったかめが ちかずいてきて
「あんた もうすこし じょうひんにおよげないのかね みなさい! まるでこうずいのあとのように みずびたしではないか」と、ふたりに どなりました。

(14)
「あらら たいへんだ!」
「ごめんなさい どうしよう………」

(15)
「わしゃ 800ねんもいきてきたが、あんたのように でっかいのはみたことがない、いったい どこからきたのかね?」
「ぼくたち これがなんだかしりたくて はるばるやってきたんだけど………」
ふたりは あのちゃいろで かたいへんなものをだしました。
「むほほほほ ただのとちのみではないか」
かめは わらっていいました。

(16)
「とちのみ?」
「きのみをしらんのかね?」
ふたりは かめに花のたねや 木のみのことを おしえてもらってすっかり かんしんしていました。
「すごいねー これがあんなにおおきな木になるんだって!」

(17)
「だれだ だれだー!」
とつぜん ふくろうがあらわれて
「おれさまのいえを みずびたしにしたのは だれだー!」
とさけびました。
「まるでこうずいのようでした」
「わたしは じしんかとおもいましたよ」
うらやまにすむ どうぶつたちが つぎつぎとでてきました。

(18)
「そうだ! おどかしたおわびに ここを花や木でいっぱいに なるようにしようよ」
「あっ それはいいかんがえだね くじらくん」
「わたしたちもてつだうわ」
「みんなでやれば あっというまさ!」

(19)
くじらとペンギンは、ふるいおどうのまわりに花のたねをまき、なえ木をうえました。

(20)
そして、さいごに くじらの木とペンギンの木を1本ずつすみっこのほうにうえました。
これは、ふたりのきねんの木です。

(21)
やがて まんまるでおおきなおつきさまが しずかに ひがしのやまから のぼってきました。

(22)
「おつきさまを こんなふうにみたのは はじめてだね」
とくじらがいいました。
「どういうこと?」どうぶつたちが ふしぎそうにききました。
「ぼくたちのすんでいるところは、おひさまも おつきさまもうみからのぼって うみにしずむんだよ、だってそらとうみのほかはなんにもなんだ、はてのはてまでずーっとうみなんだ」

(23)
「ねえ かめさん、ぼくたちがまいた花のたね ちゃんと めをだすかなあ」
「もちろんじゃ。らいねん ここは花でいっぱいになる」

(24)
「じゃ ぼくたちがうえた木はどうかなあ りっぱな木になるかなあ………」
「りっぱな木になる! だいじょうぶ」

(25)
「いいつきだね ペンギンくん」
「うん。きょうはとくにきれいだね」
「きてよかったね」
「うん。きてよかった」
ザッブーン! くじらは おもわずジャンプしてしまいました。
とてもきぶんがよかったので、しっぽがむずむずして つい「ほいさっ!」と、やってしまったみたい。

(26)
くじらとペンギン、かえりはしずかに かえりました。
ふるいおどうのまわりは、いつでも花がたくさんさき、ふたりがうえたなえ木も、りっぱな木になって いいぐあいのかぜがそよいでいるらしいですよ。

いってみませんか せんにんどうへ………